抗力危機
こうりょくきき
説明
抗力危機は、物体(特に球や円柱など)における抗力係数が特定のレイノルズ数領域で急激に低下する現象を指す。典型的には、ゴルフボールを高速に流したときにディンプル(くぼみ)の効果で境界層が遷移し剥離が遅れることで抗力が大幅に下がる現象が挙げられる。滑らかな球でもレイノルズ数約\(3×10^5\) 前後で境界層が層流から乱流へ遷移し、乱流境界層はエネルギーが高いため後方まで粘着し剥離点が後退する。その結果、背面の逆圧力が上昇し抗力が減少する。これが抗力危機(阻力危機)であり、抗力係数の曲線に谷として現れる。工学的には、自動車の車体形状や野球のボールなどでも類似の現象が見られ、意図的に表面に粗さを設けて境界層遷移を促すことで抗力低減を図ることがある。抗力危機は流体力学の非線形な振る舞いの一例であり、遷移現象と剥離の相互作用を理解する上で興味深い現象である。