燃料電池・水電解のCFD解析

概要

燃料電池および水電解は、それぞれ異なる目的(発電と水素製造)を持つシステムですが、いずれも電気化学反応と物質輸送という共通の物理現象に基づいています。 Advance/FrontFlow/red(以下、AFFr)は、これらの複雑な現象を高精度に再現し、統合的に解析できるCFDプラットフォームです。 本ページでは、AFFrを用いた燃料電池および水電解のCFD解析の適用事例と、それを支える定式化や拡張機能についてご紹介します。

燃料電池のCFD解析

燃料電池のCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)解析は、化学エネルギー(水素と酸素)を電気エネルギーに変換する効率を最大化すること、 安定した発電性能を維持し、長寿命化を図ることから、需要が高まっています。

アドバンスソフトの流体解析ソフトウェア Advance/FrontFlow/red(以下AFFrと略す)の基本機能に燃料電池開発機能を追加し、プログラム開発しています。 電気化学反応、混相流、ガス拡散、多孔質流れなどの複雑な物理現象を再現するには、高度なCFD技術およびお客様と議論しながらの開発が不可欠です。 自社で開発していることから、ご要望に応じたカスタマイズが可能です。

解析のフロー全体像

AFFrを用いた燃料電池のCFD解析の解析の全体フローチャートを図1に示します。 青枠のAFFrの基本機能に、緑枠の機能拡張部分、赤枠の燃料電池用に開発部分を追加し、燃料電池開発機能を追加したAFFrを開発しています。

図1:燃料電池のCFD解析、フローチャート

定式化

AFFrを用いた燃料電池のCFD解析の定式化として、ここで解く熱流体解析の基礎方程式、 質量保存式、運動量保存式、化学種成分保存式、エネルギー保存式と、それらが解析の全体のフローのどこで行われるのか(黒字で表示)を図2に示します。 上記の支配方程式により圧力、速度、化学種濃度および温度場を算出しています。

図2:熱流体解析の基礎方程式

粘性係数について、単成分(Chapman-Enskogの式)か混合気かについての算出と、解析の全体のフローのどこで行われるのかを図3に示します。

図3:粘性係数の算出

熱伝導率について、単成分(Euckenの式)か混合気かについての算出と、解析の全体のフローのどこで行われるのかを図4に示します。

図4:熱伝導率の算出

拡散係数の扱いについて、2成分系の相互拡散係数(Chapman-Enskogの式)か多成分系における化学種iの拡散係数、解析の全体のフローのどこで行われるのかを図5に示します。

図5:拡散係数の扱い

熱物性算出方法ついては、NASAの7係数多項式を用いて、比熱、エンタルピ、エントロピを求めています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図6に示します。

図6:熱物性算出

電気化学反応解析機能、Anodeにおける電気化学反応、Butler-Volmerによる電気化学反応解析機能を構築しています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図7に示します。

図7:電気化学反応(アノード)

電気化学反応解析機能、Cathodeにおける電気化学反応、Butler-Volmerによる電気化学反応解析機能を構築しています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図8に示します。

図8:電気化学反応(カソード)

電気化学反応解析機能では、電気化学反応における化学種の生成・消費量を図9のように求めています。また、解析の全体のフローのどこで行われるのかを示します。

図9:電気化学反応における化学種の生成・消費

電気ポテンシャル・イオンポテンシャル解析機能では、電子の輸送方程式とプロトンの輸送方程式により電流密度分布を算出しています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図10に示します。

図10:電流密度分布の算出

液水の移動解析機能では、液水飽和度の輸送方程式により算出しています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図11に示します。

図11:液水移動解析

液水の移動解析機能について、GDLにおける拡散係数(キャピラリー拡散モデル)、Leverret関数を用いています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図12に示します。

図12:GDLにおける液水拡散

電解質膜の移動解析機能について、電解質膜の水輸送モデル、電解質膜における拡散係数を用いています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図13に示します。

図13:電解質膜の水輸送モデル

触媒層内の移動解析機能について、触媒層内の物質輸送モデル、触媒層内の気相の拡散係数、電解質膜における拡散係数を用いています。解析の全体のフローのどこで行われるのかを図14に示します。

図14:触媒層内の移動解析機能

表1 にAFFrで出力される変数一覧を示します。 表に無い変数は、ユーザーサブルーチンにより追加することが可能となっています。

表1:AFFrで出力される変数一覧

項目内容単位
Density密度kg/m3
FAI_MイオンポテンシャルV
FAI_S電気ポテンシャルV
Electric_conductivity電気伝導度S/m
over_potn過電圧V
current_density電流密度A/m2
HPC_region並列計算のCPU
Mach_numberマッハ数
Mass_fraction_X成分Xの質量分率(Xは任意)kg/kg
Saturation飽和度
Static_pressure静圧Pa
SurMolRate_X_mol_m_2_s_Y境界Xにおける成分Yの生成率(X,Yは任意)mol/(m2s)
Temperature温度K
Turbulent_viscosity渦粘性Pa・s
yplusy+
Velocity流速m/s
wall_normal壁面の法線ベクトル
wall_press_force壁面圧力Pa
wall_shear_force壁面せん断応力Pa
Coordinates座標m

燃料電池の検証、解析モデル

ここでは、ペンシルバニア州立大学の論文(Magnussen et al. 2004)を参考に単一流路モデルを同条件で計算し,論文とAFFrで解析結果の比較を行っています。 単一流路モデルによる検証の概要を図15に示します。

図15:単一流路モデル解析条件図

燃料電池の検証、解析結果

AFFrによる解析結果より、電気ポテンシャル・イオンポテンシャル・水蒸気質量分率の分布図を図16に示します。

図16:電気ポテンシャル・イオンポテンシャル・水蒸気質量分率の分布図

AFFrによる解析結果より、I-V特性(流れる電流Iと電圧Vの関係)を論文の値と比較したものを図17に示します。

図17:I-V特性図、実験と解析の比較図

水電解のCFD解析

水電解は、水を電気分解して水素と酸素を生成するプロセスです。脱炭素社会の実現のため、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源が必要です。水素は、燃焼時にCO2を排出しないため、次世代のクリーンエネルギーとして、近年、注目されています。

水電解のCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)解析は、水電解装置内部での水の流れ、イオンの動き、反応、熱の発生などをコンピューター上でシミュレーションする技術です。 これにより、実際に装置を作らなくても、その性能や挙動を予測し、設計を最適化することができます。 電気化学反応、混相流、ガス拡散、多孔質流れなどの複雑な物理現象を再現するには、高度なCFD技術およびお客様と議論しながらの開発が不可欠です。 アドバンスソフトの流体解析ソフトウェア Advance/FrontFlow/red(以下AFFrと略す)では、水電解装置に特化したCFDモデルの成果が出ており、ご要望に応じたカスタマイズが可能です。

水電解の検証、解析モデル

解析に用いる固体高分子型水電解法の概略図を図18に示します。

図18:固体高分子型水電解法

水電解の検証、解析結果

AFFrによる解析結果より、I-V特性(流れる電流Iと電圧Vの関係)をまとめたものを図19に示します。

図19:I-V特性図、水電解、解析結果

参考文献

  1. Magnussen, B. F., Hua Meng and Chao-Yang Wang, “Electron Transport in PEFCs”, Journal of The Electrochemical Society, 151 (3) A358-A367(2004)

カテゴリ

化学反応・燃焼
多孔質体
エネルギー

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