Sandia H2 flameの再現解析

概要

Sandia H₂/He flame data (Barlow et al. 2003)は、 Sandia National Laboratoriesにて行われた、 水素火炎にヘリウム希釈を加えた噴流拡散火炎の詳細な計測データです。

本項では、当社の CFD ソフト Advance/FrontFlow/red 搭載の、詳細化学反応機構の検証問題として、 2次元における定常Reynolds-Averaged Navier-Stokes(RANS)解析を行い、Sandia flameの 先行研究データ(Barlow et al. 2003Sohn et al. 2016)との比較を行いました。

解析条件

表1 が、解析条件となります。 化学反応メカニズムにはBurkeらにより2011年に提案されているH2/O2用燃焼メカニズム (Burke et al. 2011)を使用しました。

表1:解析条件

項目設定
ソルバAdvance/FrontFlow/red ver.5.8
支配方程式低マッハ数近似 Reynolds-Averaged Navier-Stokes (RANS)方程式
空間離散化有限体積法+セル中心法
対流項スキーム運動量、エネルギー、化学種、乱流モデル変数ともに1次精度風上差分法
圧力ー速度カップル法SIMPLE法
勾配計算Green Gauss法
時間積分Euler陰解法
行列計算ICCG法
乱流モデルSST\(k-\omega\)乱流モデル
化学反応素反応モデル(逆反応の係数は化学平衡の概念から算出)
化学反応機構H2/O2反応用メカニズム (Burke etal.etal. 2011)
熱力学変数NASA7多項式によるモデル化
輸送係数粘性、拡散係数、熱伝導率ともにLennard-Jonesパラメータを用いた実在物性

図1に解析格子の断面図を示します。 本解析では、2次元で作成した計算格子を5deg分(1セル分)回転押し出しをして、 2.5次元の格子を作成しました。セル数は約5万セルとなりました。 図2は流入面の拡大図を示しています。 今回の解析ではHeによる希釈は行わずに、中心部からH2のジェットが流入し、 周りから空気が低速で流入します。初期条件において、温源として高温領域を設定し火炎の発達を促します。 本解析では、時間発展項を緩和項として定常解を求める方法を用いており、 流れ場の素早い発達のために時間刻みを Δt=1.0×10−5[s]Δt=1.0×10−5[s] としました。 使用したCPU数は、56 CPUsとなっています。

図1:計算格子

図2:流入位置拡大図

解析結果

以下では、得られた定常解の温度分布 \(\overline{T}\)、速度の大きさ\(\overline{U}\) 分布を表しています。 H2ジェットと空気流の境界面から火が付き、火炎が下流に大きく広がっている様子が確認できます。 また、高速なジェット噴流も下流まで広がっています。

図3:平均の温度\(\overline{T}\)分布

図4:平均の速度の大きさ\(\overline{U}\)分布

最後に、Advance/FrontFlow/red による解析結果を、 実験によって得られた観測データ (Barlow et al. 2003)と、 先行研究の解析結果 (Sohn et al. 2016)とともに比較しました。 温度分布だけでなく、それぞれの化学種質量分布も実験値や先行研究の結果と比較的よく一致している様子が確認できました。

図5:温度\(\overline{T}\)分布

図6:O2質量分率\(\overline{Y_{O2}}\)分布

図7:H2O質量分率\(\overline{Y_{H2O}}\)分布

図8:OH質量分率\(\overline{Y_{OH}}\)分布

Advance/FrontFlow/red の高度な乱流燃焼解析機能を活用することで、 詳細な燃焼挙動の予測や設計への応用が可能です。

参考文献

  1. Barlow, R. S., “Sandia H2/He Flame Data – Release 2.0,” https://tnfworkshop.org/data-archives/simplejet/h2he/, Sandia National Laboratories, 2003 (Accessed May, 2025).
  2. Sohn, Y. H., and Perez-Fontes, E. S., “Computational fluid dynamics modeling of hydrogen-oxygen flame,” International Journal of Hydrogen Energy, Vol. 41, Issue 4, pp. 3284-3290, 2016.
  3. Burke, P. M., Chaos, M., Ju, Y., Dryer, L. F., Klippenstein, J. S., “Comprehensive H2/O2 kinetic model for high-pressure combustion,” International Journal of Chemical Kinetics, Vol. 44, Issue 7, pp. 444-474, 2011.

カテゴリ

化学反応・燃焼
エネルギー
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